運用方針を高配当個別株とインデックス投資に決めた経緯については、ごく簡単に以前の記事で触れました。
ですが、実はこの運用方針が、私が以前株式投資に失敗した理由の根源であり、また今回株式投資をリスタートさせるにあたって最も重要であると思っていることになります。今回は、この点について詳しく書いていきます。
■株式投資=キャピタルゲイン、だけではないもうひとつのゲインとは
一般的に株式投資というと、株を安い時に買って高くなったら売却する、その差額が自分の利益になるキャピタルゲインをさすものという捉え方が多いと感じます。そう思っている人が日本人の大半ではないでしょうか。実は私もそういう一人でした。
ですが、株式投資にはキャピタルゲインの他にもう1つ、配当という利益の得かたがあります。こうした配当による利益を得ることはインカムゲインと呼ばれます。キャピタルゲインという言葉はメディアなどでも目にすることが多いのではないかと思いますがインカムゲインという言葉は、ほとんど見ることはないのではないでしょうか。配当という言葉は多くの人が知ってはいると思いますが、配当=インカムゲインを主軸にする株式投資の方法があることを、多くの人がはっきりとは理解していないのではないかと思いますし、実際に自分がそうでした。
■「儲かるかどうか」よりも大切なこと
かつて持株会で自分が勤めている会社の株を所有していた時に、万が一勤める会社の業績が思わしくなくなったら、給料も減るし株価も落ちる、といったリスクを低減させようとしました。そのために、持ち株の一部を売って、他の会社の株を買ってみたのです。それ自体は、リスク分散の点でも間違っていなかったのだろうと思っていますが、問題は、自分が自社株以外の何を買えば良いのかが当時の私には全く分かっていなかったことです。
インデックス投資信託を買えば良いのだという話もあって、当時は日経225に連動するインデックス投信も少し購入はしました。しかし、もともと自社株=個別株を持っていたことに引きずられてか、深く考えることもなく別な会社の個別株を買おうという発想になってしまい、自分が応援したいと思った会社の株を買ってみたり、将来にわたって人々が必要とするであろう商品を扱っている会社の株を買ったりしました。
しかし、各銘柄の PERやPBR、ROEやROAなどを確認しなかった(知らなかった)のはもちろん、そもそもインカムゲインを得るのかキャピタルゲインを得るのかという意識すら曖昧でした。先に書いたとおり、なんとなく値上がりしたら売ればいいんだろうという気持ちでいたので、そういう意味ではキャピタルゲインを得ようとしていたと言えますが、キャピタルゲインとインカムゲインの大きくは2つの選択肢があって、その中からキャピタルゲインをとるのだという明確な意識ではありませんでした。
当然のことながらこうした運用方針がないに等しい状態では、保有銘柄の選択基準も作れないですし、当時の私は何が選択基準になるのか基本的な知識すらありませんでした。つまり、あてずっぽうで買ったわけですから、思うように株価が伸びるわけもありません。配当の出る銘柄を買っていましたが、配当利回りという考え方も分かっていませんから、配当額の評価もできず、ただ金額が多い少ない、と思うだけ。
そうこうするうちに株式投資に対する興味が失われてしまい、当時はまだ郵送された配当金受取書を郵便局に持参して配当金をもらうことすら忘れてしまうほどの有様でした。これは今になって考えると、非常にもったいない、という以前に頭がおかしいと今でも思いますが、そのくらい関心を失ってしまったのです。その結果、保有資産が大きく目べりしたことは、以前書いた通りです。
株式投資をして儲かるかどうか以前に、関心を持ち続けること、それが出来る仕組みづくりが最も大切なのだ、と今は思っています。仮に損をしたとしても、関心を持ち続けられれば(そして、戦意を喪失してしまうほど大きく損をしなければ)、どうやって改善しようかと情報収集して考えて試行錯誤し、結果的には利益を得られるようになるだろう、と思うからです。
■株式投資リスタートにあたって最重要視したこと
こうした苦い経験から、株式投資をリスタートするにあたって自分が株式投資に対して最低限の興味を持ち続けられること、その仕組みが運用方針を決めるにあたって絶対条件でした。これは同じ失敗を繰り返したくないという気持ちからですが、もうひとつ、若いうちの失敗は取り戻しやすいですが、今回は既に受け取っている退職金を少なくても目減りさせずにおかないと、自分たち夫婦の将来の生活が危うくなる、という現実の危機感があるから、でもあります。
毎月の積立てでは米国株のインデックス投資を行うことにしましたが、これに加えて高配当の個別株を日米両方の株でもつことにしました。配当金は、少なくても年に1回、日本株の多くは年に2回、米国株の多くは年に4回支払われますので、自分が保有している銘柄に対して関心を取り戻す仕組みとして配当金の入金が機能するだろうと期待したからです。実際に、米国株は少額ながら小刻みに入金されますし、日本株も3月決算の会社の配当が6月にそれなりにまとまった金額で証券口座に入金された時には、嬉しさを感じるとともに、改めて決算状況や今後の配当予想などを確認しましたので、この仕組みは上手く機能しそうだ、と思っています。年間の総配当受取額をどう伸ばすか、ということも、これは老後に向けて年金額を増やすことと同じですので、大きく関心が向いています。
■インデックス投資の欠点を補うために
一般的には、投資の初心者や慣れていない人に対しては、市場全体に連動するインデックスの投資信託(やETF)を保有し、積立を継続しながら「ほったらかし」で保有し続けるのが、ひとつの典型的で失敗しにくい資産形成の方法として、ほぼコンセンサスが得られているといってもいい状態だと思います。
インデックス投信・ETFは、運用者が個別株を購入・保有してそれをポートフォリオとして持ち、その一部分を購入して所有する形になるので、定期的な運用報告はあるものの個別企業の決算期のような明確な節目があるわけではありません。分配金がないタイプの商品であれば、株式の配当に相当するものもなく、そうなると本当にほったらかしになってしまうということが心配でした。
そこで、インデックスの積立は行うとして、それに加えて個別株を選んで保有することで自分の関心が株式投資から離れてしまわないようにすることが、個別株投資を選んだ理由になります。
関心を持ち続けるためには、高配当株ではなく成長株のキャピタルゲインを狙う方法もあると思います。しかしこの場合、自分の性格からすると、とことん関心をを寄せてしまい、毎日毎時間の株価の上下に一喜一憂するという関わり方になることを恐れました。私の場合は専業投資家ではなく、本業の合間や休日に時間を取ろうという方針ですので、株式投資にかかりきりになるのではその方針にそぐわないものになってしまいます。
■配当狙いであれば売り買いのタイミングにも悩まされない
また、キャピタルゲインを得るための投資は、株式を買うタイミングはもちろん、売るタイミングについても様々に分析・検討し判断しなければなりません。これが初心者にはハードルが高いものだと、過去の経験も含めて感じていました。
その点、配当を狙うのであれば、自分が設定した配当利回りを基準として、自分がのぞむリターンを出せる時に買えばよいので、買うタイミングについて大きく悩む必要はありません。そして、配当額が変わらない限り、一度買ってしまえばその後の株価の上下に配当利回りが影響されることもありません。つまり、買い時の見極めだけしっかりと出来ていれば、あとは放ったらかしに近い状態で構わないわけです。
そして、私の場合は、求める配当が出続ける限りはその株を保有し続けることを前提に考えていますので、売るタイミングを考える必要は原則的にはありません。あるとすれば、自分が望むだけの配当が出なくなった時に売却を検討するということになります。
仮に配当利回りが5%であれば、10年保有すると購入時の株価の50%を配当として既に受け取っていることになります。仮にその後に配当額が下がった場合、売却を考える可能性がありますが、売却時の株価が買った値段の半額になっていたとしても単純計算ではすでに配当で回収しているのでトントン、3割の株価の下落であればモトは取れている、ということになります。もちろん税金などもあり、正確な計算はもう少し複雑になりますけれども、目標の配当利回りを決め、それを基準に売買しておけば比較的損失を出しにくい投資方法と言えるのではないかと考えています。
■結果的に個別株が中心のポートフォリオに
このようにして、当初はインデックス投資をメインに、個別株をサブにしようと思っていたのですが、結果的にはインデックス投信・ETFはほぼ毎月の積立で一定額を買うだけになり、追加投資は個別株に振り向けていて、結果的に個別株の割合が高くなってしまいました。これは一つには、どうせ個別株を保有するのであれば、ある程度銘柄が分散したほうが安定するのではないか、と途中から考え始めたこともあります。
実際に200銘柄ほどの個別株の高配当銘柄を買ってみて感じるのは、割安な高配当株選んでいるせいもあってか、市場全体の株価が下げている場合でも評価損が出にくい傾向にあるということ。手元のまとまった資金はほぼ投資に回しきっている状態になって数ヶ月が経ちますが、現在では市場全体が下げている場合でもポートフォリオとしての評価損益がマイナスになることはほぼなくなりました。
実際には評価損益がプラスであれマイナスであれ、自分が求める配当が出続ければ株価自体は気にしなくて良いのです。ただ、証券口座のサイトを開くと損益が表示されて目につくので、ここでマイナスが目に入り続けることは気分の良いものではありません。その点で割安の高配当株を中心にしたポートフォリオを組むことによって、個別にはともかく、全体として極端な含み損を目にすることがなく、むしろ相場がさげている時であっても評価損益がマイナスにならない状態を見ていられることは精神的に非常に楽です。銘柄選択については、また別な機会に書きたいと思っています。
■すべては相性。自分に合った運用方針・投資方針を
ここまで、私の高配当銘柄中心のポートフォリオを組んだ経緯について書いてきましたが、誰にでもこのやり方がふさわしいかというと、そうではないと思っています。
高配当株は、成長株のキャピタルゲインを狙うことに比べれば儲けにくい、資産を増やしにくいと言われています。もちろんそれはキャピタルゲインを狙った投資が成功すればの話ではありますが、成長株で大きなキャピタルゲインを得る方法を身につけている方、それを身につける意欲のある方はそちらの方が早くご自身の資産を増やせるかもしれません。
また1日の中で自分がどの程度株式投資に時間を割くかということにも関わってくると思います。いわゆるデイトレと呼ばれるようなトレーディングをするのであれば、株式相場が開いている時間中ずっと売り買いをするといったことになるのかもしれません。それができる時間が取れる方、またそれに見合った収益を得られる方は、こうしたデイトレの方法も資産形成に寄与する可能性があるのだろうと思います。
そして若い方で、これから資産を増やそうという方にとっては、早く大きく資産を増やせる方法の方が魅力的に映ると思います。一方で、例えば私のように退職金を手にしそれをいかに減らさずに安定的に運用するかを優先するのであれば、株式投資であればインカムゲインを狙った運用方針が適するように思いますし、更に言えば、十分な資産額を既に保有している方であれば、証券資産としては、株式ではなく債券で運用する方が適する場合もあるのでしょう。
いずれにしても、ご自身の年齢やご家族の状況、投資に対する考え方や自分の性格などの違いから、人それぞれに向いている運用方針・投資方針があると思います。
ひとつだけ、ほぼ誰にでも言えることは、よほど多額の資産を持っているという方でもない限り、方針はどうあれ資産運用を「しない」という選択肢だけは今の日本の状況においては「ない」のではないか、と思っています。資産運用・形成をするかしないかで言えば「する」が、ほぼすべての人にとっての正解と言って良いのではないかと思っています。
ただ、どのような方針でやるかについては、人それぞれに千差万別なものが最適解になるのだと思います。それが資産形成・運用を難しくしているのだろうと感じます。
■お手本になる人を見つける
この難しさをどう乗り越えたらよいか。その一つの方法は、自分の考え方や置かれている状況に近い人で、既に資産形成・運用をしている人のやり方を真似てみることです。自分の知り合いにそういう人がいれば教えてもらうことも良いでしょうし、また昨今ではブログやツイッターなどでも多くの人が自分自身の資産形成・運用について詳しく書いています。
こうしたものの中から、自分にしっくりくると感じる人を見つけ、その人が書いているブログや本なども含めて読んでみて、少しづつ無理のないところから真似をしてみるところから始めるのは、始め方として適切ではないかと思います。
もちろん、そうしたお手本になる人がうまく見つかるかどうかは分かりません。オンラインで情報を発信しているのは20代30代の人が中心で、将来の(年金などの)不安を持つ人が早めの資産形成を図ろうとして情報の共有をしているように感じます。私のように早期退職するような年齢の人が退職金を運用している人で自分のお手本になる人は見出せていません。ですが、コツコツと長年高配当株投資を継続してきている40代と思われる人のやり方などは、大変参考になりました。そうした方がコツコツと積み上げてきたポートフォリオを参考に、納得がいく・理解できる範囲で、自分の場合はそれを少し早いスピードでポートフォリオにしていけば良いと考えました。
■ 「一日の長」は投資でもおなじ
いずれにしても、焦る必要はないものの、取り掛かるのが1日でも早ければそのぶんだけ成果が生まれやすくなるということができるのでしょう。今、これを書いている2022年7月の時点では、日本・アメリカともに株式市場の動向は不安定です。年初から続いた下げの相場がようやく落ち着くのかどうかといったところとみて良いのかと思います。株式市場が好調に伸びているという状況ではないので、今、株式を買って良いかどうかということは、悩みになる時期ともいえるでしょう。
それだけに、相場が上げているか下げているかではなく、期待する配当利回りが生まれるかどうかを見て投資すればよい高配当銘柄への個別株の投資は、株式相場の状況を問わず始めやすい。それもインカムゲインを狙った投資のメリットの一つではないかと思います。
ここに書いたことはあくまで私の現時点の理解と考え方であり、全ての方にとって最適な投資方針とは限りませんし、間違ったことを書いている部分もあるかもしれません。ただ、私自身がどのようにこの投資方針を選んだのかというプロセスを、ご自身の場合に置き換えていただければ、自分がどのような投資方針を取るのが良いか、考える材料になるのではないかと思いますし、そのように活用して頂けたら嬉しいです。
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