サラリーマンの資産形成の王道として、毎月の給料から一定額を投資や貯蓄に回していく広い意味での「積み立て」があります。「天引き」で貯蓄や持ち株会などに強制的にお金を投じるのは一番確実ですし、つみたてNISAなども文字通りの方法。株式投資をするにしても、時間分散がきき、ドルコスト平均法で投資タイミングを考えなくてもいいというメリットがあります。毎日とか毎週など周期を決めて、1株づつ買っていく方法も一般的になってきていると感じます。こうした広義の「積み立て」についてはたくさんの方が実践していて、多くの情報があるので、その中からもっとも自分に合うと思える手法を選ぶことが出来ます。
一方で、(早期)退職や転職などにともなって、退職金を手にしたときなど、まとまったお金をどう投資していけばいいかについては、あまり多くの情報がないと感じています。実際、私が退職金を手にした時に、どうしたものかとちょっと途方に暮れました。その経験が他の方の参考になれば、と思うので、退職金を受け取ってから投資方針を決めて株式投資をするまでの私の体験を書いておこうと思います。これが最適であるかはわかりませんし、私自身失敗したと思う部分もありますが、良いと思うところは取り入れ、ダメと思うところは避ける、という形で活用して頂けるならうれしいです。
退職時点で資金配分計画を考えた
退職金やそれまでの社内貯蓄やDC(確定拠出年金)など、退職時に受け取るお金の総額が分かった時に、何にいくら使うかの計画を立て、家族にも話して了解を得ました。金額は伏せますが、大まかには以下の通りの配分にしました。
・30% 退職後2年分の生活費(余裕をみて退職前の年額x2、年金・国保・税金など含む)
・10% 独立後の事業費(会社設立、オフィス費用など)
・60% ★運用資産★
そして、この★運用資産★全体を100として、大まかに以下の通りの振り分けました。
・10% DC(移換して継続)
・20% 外貨預金(積み立ててきたものを継続)
・10% 持株会で持っていた自社株やすでに保有していた株式・投信
・20% 国債(個人10年・変動金利)
・20% ドル建て貯蓄保険
・10% 友人の事業への出資
・10% 予備費
黒の部分が退職前からのものをそのまま保有するもの、緑の部分が退職後新たに加わったものです。予備費の部分は緑の部分に含めるべきかちょっと微妙なところもありますが、その点も考慮すると、運用資産の半分ほどはサラリーマン時代に積み上げたものでした。
この時点では、まだ退職金をどのように運用するか迷っており、預金にしておくだけでは増えないことと、ズルズルと手を付けてしまうと老後が大変なことになることは分かっていたので、10%ほどを予備費として預金で保有するほかは、金融商品や友人の事業への出資に充てて、すぐに使えない状態にしました。正直なところを言えば、この時点では殖やすというよりも、手を付けて老後資金の原資を減らしてしまわないようにする点に主眼がありました。
ドル建ての貯蓄保険は銀行が勧めてきたものですが、これがロクなものではない、ということは半分分かっていたのですが、銀行とのしがらみがあり、その関係で国債もこの銀行系列の証券会社から買うことにしていたため、他に選ぶべき金融商品もなく、やむを得ずの選択でした。(これについては、この記事の執筆時点では円安ドル高であるために何とかなっていますが、次に株式投資に回すのはこれを解約して充てる予定です。)
ここまでやったところで、自分の会社を作り事業を立ち上げることに忙しくなって、保有していた株式は引き続き放置となってしまい、大きく目減りしたことは、以前の記事に書いた通りです。
運用方針・投資方針を決める
自分の会社の事業も、上手くいくというほどではないにせよ、低空飛行ながら継続できるようになるにしたがって、この数年、改めて老後資金についての不安が強くなるようになってきていました。理由は明白で、上に書いた通り、手を付けて使ってしまわないようにしただけで、具体的に老後に必要な費用を想定し、それに応じて資産運用・形成をしていくめどが立っていないままだったからです。分からないこと・ハッキリしないことは不安を強めますし、出口のない心配が膨れ上がっていくことになり、精神的にも悪影響を及ぼします。
これは何とかしなければ、という思いが強くなり、友人からFPさんの紹介を受けたりもしたのですが、最後のところであまり乗り気になれずに時間が過ぎていたところで、旧知の知人が長年投資をしてきていることを知り、相談したところ、私の今の状況であれば、投信やETFの積み立て投資をやりつつ、高配当株の個別株投資をしてはどうかというアドバイスをもらいました。
アドバイスを聞いているうちに気が付いたのは、私がいかに株式市場というものの本質について理解していなかったか、ということです。それについては、こちらの記事に書きました。
そして、さまざまにある株式投資のスタイルの中でも、配当を目的にすること、いわゆる割安株を主な保有対象にすること、日米双方の個別株を保有すること、そして、原則として保有し続けること(ガチホですね)・保有し続けられると思える銘柄を買うこと、という投資方針を固めました。
最終的にはこの投資方針のもと株式で保有する資産の比率を増やすつもりですが、まずは先ほど挙げた運用資産のうち、以下の3つのカテゴリーの金融商品を投信・ETFと高配当株にすることにしました。退職時の運用資産全体の約半分にあたります。
・外貨預金
・国債(個人10年・変動金利)
・持株会で持っていた自社株やすでに保有していた株式・投信
外貨預金は、すでに金利がゼロに近く為替差益が出る円相場であったため、解約して円貨にもどし、それを証券口座に移しました。
国債は満期を待たずに売却となりましたが、直近2回分の利息を放棄すればいつでも中途換金可能で元本割れはしないし、利息と言っても年0.05%でしたから、気にするような金額ではありません。(その意味では、一時的な余裕資金の退避先としては国債は悪くないですね。銀行の預金よりは利率も良いですし、リスクは銀行預金よりも低いです。)
株式(や一部は投信)として持っていたものもあったわけですが、これについては投資方針にてらして継続保有するかどうかを検討することにしました。結論としては、すべて売却して銘柄を入れ替えています。
運用方針と対象が決まったのはいいのですが、合計すると8桁にのる金額の資金を、どのように株式に移していけばいいのか、その時間軸が新たな課題として浮上しました。
時間分散ではなく銘柄分散で、4か月のうちに8桁の金額を株式投資
教科書的には、多額の資金は、数年といった時間をかけ、時間分散をしていきながら投資に回していくのが一般的なようであり、手ほどきをしてくれた友人もそういう意見でした。
自分でも調べてみたのですが、ある程度まとまった金額を短期間のうちに投資する方法は、あまりはっきりとした「王道」はないようです(もしあったら、私の勉強不足です、すみません)。
このため、当初は、3年ほどかけて年に数百万円、1か月で数十万円程度の投資をしていくつもりでしたし、そういったペースで銘柄の選択と投資を始めました。
ところが、ちょうど株式市場全体が昨年までの上げ相場から下げに転じ、次々と投資対象にしてよいと思われる銘柄が手ごろな株価になってきました。ある程度、投資ペースはセーブしていたつもりですが、それでも買い時と思われる、つまり期待される配当利回りが得られる株価になる銘柄が増えてきました。
ここで投資ペースを守るかどうかは悩んだのですが、結論としては、投資ペース(金額消化)・時間分散を気にするのではなく、保有銘柄の配当利回りが自分の投資方針に見合うかを気にすることにしました。高配当株を保有し続ける前提であれば、目指す配当(利回り)が得られればよいのです。時間分散をすることでその利回りを生む株価が得られるとは限らないこと、マーケット全体の上げ下げと個別株の株価の上下は必ずしも一致しないことからも、個別株に関しては時間分散をあまり気にしなくてもよいだろう、と思うようになりました。
その代わりに、銘柄分散をすることを意識して買っていきました。1銘柄を大量に保有するのではなく、原則として1銘柄1~2単元(通常1単元=100株)の保有にすること、セクター(業種)の分散に留意すること(ただし、下の配当グラフにあるように、一部の銘柄は多数保有しているものもあります)。タイミングとして、例えば海運株や商社株は株価が高く、配当利回りが低いために買わない、といった偏りは出ていますが、そうした偏りについては、今後中長期的な株価変動のなかで、タイミングが来た時にポートフォリオに加えて修正したいと思っています。
結果的に、以下の通り、約200銘柄に対して、2022年前半の4か月ほどの間に投資しました。
日本株 約130銘柄(うち単元未満 約50銘柄)
米国株 約75銘柄(投信・ETF含む)
果たしてこれが正しかったのか、時間が経ってみないとわかりませんが、取得時点の株価ベースでは配当利回りが4%以上(米国株は日本円で換算)となっていて、評価損益(含み益)も時間が経つにつれて安定して6%程度のプラスになっていたりするので、少なくても高値掴みをしてしまった銘柄はさほど多くないかと思います(いくつかはありますが)。年配当額予想も、円安でかさ上げされている部分もありますが、6桁台の後半に届いているので、まずまずかと思っています。
まとめ
下げ基調の相場と、日本企業については好決算が多いタイミングに助けられたこともありますが、結果的には短い間に8桁の金額を投資しました。もし、上げ基調であまり決算が振るわない時期であれば、配当利回りの基準を満たす銘柄の出現が少なくなり、投資に時間がかかって結果的に時間分散が効く(その代わりに銘柄分散の度合いは低くなる)ということになったかもしれません。
運用方針が定まっていて、分散投資によるリスク低減を意識しているのであれば(それも方針のうちですね)、その時の市場環境に応じて、時間と銘柄の分散度合いが異なることにはなるのかもしれません。
ただ、200銘柄以上の保有は、米国高配当株ETFであるSPYDやHDVの構成銘柄が70~80銘柄であることを考えると2〜3倍で、構成銘柄の多いVYMとの比較でも半分に当たる数です。これをケアしきれるのか、という課題はあり、最初からすべてとはいきませんが、順次各銘柄への理解を深めていきたいと思っています。
一方、ETFに負けず劣らずの銘柄数で構成されたポートフォリオであれば、銘柄選択が一定の妥当性をもっていればですが、いくつかの銘柄が思わしくないとしても、全体としてはまずまずの運用成績になるのではないか、とも思ったりします。もちろん、それにしても銘柄への理解を深めて、パフォーマンスが改善するように銘柄の入れ替えや買い増しなどを調整していく必要はあるのでしょう。
しばらく、このポートフォリオの状況を見ながら、銘柄ごとに理解も深めて、タイミングを見てドル建て貯蓄保険の資金を移していこうと考えています。もちろん、毎月のいくつかのETF・投信の積み立てを継続し、配当の再投資や、少額でも余裕資金が出来た時には1株づつ買い増すなどしていきたいと考えています。
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